著者:Matz
OpenSalary.jpで転職や報酬市場のリサーチ等を担当。自身も8回の転職経験があるため、その経験を活かして転職志望者目線にたったインサイトを提供。

エンジニアの皆様並びに採用担当の皆様に向け、IT人材の年収について企業・国境という観点から考察してみました。

結論としては、現状はまだ例え同じスキルセットをもつ人材であっても、所属するところによって給与が変わってしまうので、報酬面でご不満をお持ちの方はご自身の希望にあった場所(国・企業)に移ることをお勧め致します。それだけ所属する場所がスキルセットや経験に匹敵、あるいは凌駕するほど重要なのです。

企業の分類について

まず、エンジニア人材の年収という観点で日本の企業群を分類すると、下記の通り5分類出来るのではないかと考えます。

  1. 国際的ビッグテック:シリコンバレーなどを発祥とする世界的企業で、給与水準は世界的高水準
  2. 国内新興大手テック:給与水準は国内的には高水準。国際的ビッグテックとの人材の取り合いをしなければ良い人材を獲得出来ないことを認識しているため、給与水準は徐々に国際的ビッグテック水準へ見直されつつある。
  3. 伝統的大企業(含むSIer):基本的に給与形態は一律年功序列型で、テック人材の扱いもスキルセットをあまり考慮されていないことが多い。一部企業についてはIT人材に対する報酬制度見直しが進められているが、あくまで従来の年功序列型報酬形態から脱却した形というだけであり、給与水準自体は国際的ビッグテックに全く追いついていない。
  4. 中小企業:給与水準は低い。テック人材の重要性も全般的にあまり高く位置付けられていない。代わりに求められるスキルセットもあまり高くない場合が多い。
  5. スタートアップ:資金調達を終えた企業は、国内新興大手テックに負けない報酬水準で優秀なIT人材確保に動く傾向が出てきている。ただし、多種多様であり一概にはまとめられない。

これを裏付けるデータとして、例えば国内でかつてユニコーンとして名を馳せ、今や国内新興大手テックの一社であるメルカリを例にとると、テック系社員は中央値でも年収1,000万円(RSU込み)を超える給与を得ています。これは明らかに国際的なビッグテックとの人材獲得競争に乗り出そうという姿勢の表れでしょう。
(メルカリ年収出典:https://opensalary.jp/companies/mercari)

また、米国で設立された求人検索サービスで先般リクルートに買収されたIndeedは、日本法人のテック系社員であっても年収中央値が1,700万円(RSU込み)を超える高額報酬を手にしており、企業側が年収レンジを各地域の類似業種を人材獲得競争の競合として見ていないのは明白です。
(Indeed年収出典:https://opensalary.jp/companies/indeed)

今後どうなっていくか

これらの動きは今後どうなるでしょうか?すでに自明であると思いますが、アッパークラスについては国際的に最も高い給与の地域・企業水準に収斂していくと思っています。また逆に、その競争に脱落してしまった企業は、採用ひいては業績拡大に大変苦しむことになるでしょう。
大きな理由としては、コロナによって働くロケーションを以前ほど重視しなくなったことだと思います。以前であれば優秀だけど地方や海外など遠隔地在住で採用できなかった人材にもどんどん活躍してもらえる素地が整ったのです。つまり、リモートワークと非同期コミュニケーションの浸透によるものです。

それにより起こったことは非常に劇的で、スキルセットさえあればどの企業でも同様の業務内容をこなせる職種(つまりエンジニアなど)は、企業の枠どころか国境を飛び越えて人材争奪戦が始まったのです。今や世界的に「優秀だけど割安な人材」というラッキー物件の発見難易度はとてつもなく上がっています。おそらく、これはエンジニアに留まらず、業種によってはビジネス系人材にも波及していくことでしょう。

今後どうすべきか

こういった動きに対して、まず一労働者としてのエンジニア目線ではどうすべきでしょうか?
答えは簡単で、あなたのスキルセットに対して最も給与を出してくれる環境に移ればいいのです。年功序列やナショナルブランドという安心感が崩壊した今、会社の看板に縋ることの恩恵は昔に比べ大きく低下しているのは間違いありません。また、業務内容は同じなのに、日系大手から外資ITへ転職したら年収が2倍になった、なんていう話はよく聞くところです。
実際にデータでみても、日系大手で日経225にも採用されているNECは年収中央値が650万円であるのに対し、皆さんご存知Google Japanの年収中央値は2,240万円です。2倍どころか3.4倍ですね。
(NEC年収出典:https://opensalary.jp/companies/nec)
(Google Japan年収出典:https://opensalary.jp/companies/google-japan)

続いて、雇用者側である企業目線ではどうすべきでしょう?

これも答えは簡単ですね。優秀なIT人材を採用したいのであれば、給与水準のベンチマークを同業他社といったドメスティックな目線から、世界水準に移す必要があります。「せっかく新卒で優秀な大学から若手を採用しても、みんな大手外資系やスタートアップに流出してしまう!」とお嘆きの経営者の方は多いのではないかと思いますが、そんな時は弊社のデータベースをご覧になってみて下さい。貴社の給与水準と業務内容で、果たして優秀な人材を繋ぎ止めておけるでしょうか?入社5年目で大活躍しているエース人材と、入社20年目で最新技術にキャッチアップ出来ていない人材がいたとして、両者を市場価格に見合う水準で適切に報酬の差別化が出来ていないのであれば、それはもう明らかに世界中の有望企業と比較して報酬的魅力を失っています。「当社にはやりがいがあるから問題ない」のであれば構わないと思いますが、どこの企業でもやりがいはあると思いますので、あまりお勧めは致しません。

おわりに

最後になりましたが、エンジニアの方は是非OpenSalary.jpへ年収情報のご提供にご協力下さい。皆様がご提供くださるデータによって、より報酬に透明性のある社会を実現出来ます。
また、企業様で弊社データにご興味がおありの方は、是非ご相談下さい。

注記:記事中で記載している年収は全てOpenSalary.jpのデータを元にしております。